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保険医の不登録処分の要件の判例です。保険医の登録にお悩みの歯科医の方は、個別指導、監査(歯科)に強い弁護士にご相談下さい。

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指導、監査の判例(4):保険医の不登録処分の要件

歯科の個別指導の書籍を出版し、歯科の指導監査に強い、弁護士の鈴木陽介です。

個別指導、監査には、弁護士を立ち会わせるべきです。

ここでは、保険医登録不登録処分取消等請求事件の判例を紹介します。

取り上げる判例は、平成26年4月18日東京地方裁判所の判決です。
説明のために、事案等の簡略化をしています。

指導監査については、以下のコラムもご覧いただければ幸いです。

【コラム】歯科の個別指導と監査の上手な対応法

 事案の概要

過去に2回健康保険法に基づく保険医の登録取消処分を受けたことのある歯科医師が、平成23年12月5日付けで保険医の登録を申請した(以下「本件申請」といいます。)ところ、中国四国厚生局長から、平成24年5月24日付けで歯科医師を保険医として登録しない旨の処分を受けた(以下「本件処分」といいます。)ことについて、本件処分の前提となった通達の規定は合理性を欠き歯科医師の職業選択の自由(憲法22条1項)を侵害するものであること、本件処分は同局長の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであることなどを主張して、本件処分の取消しを求めるとともに、保険医の登録の義務付けを求めた(以下「本件義務付けの訴え」といいます。)事案です。

事案の概要は以下のとおりです。

1 1回目の登録と取消し

歯科医師は、昭和47年5月、歯科医師の免許を取得し、同月31日、保険医の登録を受けた。
広島県知事は、昭和55年5月1日、歯科医師に対し、保険医の登録を取り消した(以下「1回目の登録取消処分」という。)。 なお、違反行為の態様については、保存期限の経過により関係する書類が存在しないため、明らかではない。

2 2回目の登録と取消し

歯科医師は、昭和57年4月1日、保険医の再登録を受けた。
広島社会保険事務局長は、平成16年11月から、歯科医師が勤務していた医療法人に対する個別指導を行ったが、平成17年2月、診療内容及び診療報酬の請求内容に著しい不当が認められるとして、個別指導を中止して、監査を開始した。そして、同年3月22日から8月5日までの間、7回にわたり監査が行われたが、その後、歯科医師は、同月8日、10日、12日に監査を行う旨の通知を受けたにもかかわらず、これに出席しなかった。また、医療法人は、同年12月28日、保険医療機関を廃止する旨の届出をした。そして、同事務局長は、歯科医師に対する監査の結果、以下のとおりの事実が判明し、歯科医師が保険医の登録取消事由に該当することを理由として、平成18年1月17日、同月19日を取消年月日として保険医の登録を取り消した(以下「2回目の登録取消処分」という。)。

1 健康保険法第81条第1号該当
ア 保険請求するに際して、全部鋳造冠を製作したにもかかわらず、ブリッジ補綴を行ったとして診療録への不実記載を行い、保険医療機関にブリッジ補綴に係る診療報酬を不正に請求させていた。
イ 保険請求するに際して、インレーにもかかわらず、全部鋳造冠を装着したとして、診療録への不実記載を行い、保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。
ウ 保険請求するに際して、歯科衛生士が不在であるにもかかわらず、歯科衛生士が歯科衛生実地指導を行ったとして保険医療機関に歯科衛生実地指導料に係る診療報酬を不正に請求させていた。
エ 保険請求するに際して、ティッシュコンディショニングを行っていないにもかかわらず、行ったとして保険医療機関にティッシュコンディショニングに係る診療報酬を不正に請求させていた。
オ 保険請求するに際して、処方箋を交付していないにもかかわらず、交付したとして診療録への不実記載を行い、保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。
カ 保険請求するに際して、保険適用以外の前装鋳造冠にもかかわらず、硬質レジンジャケット冠を装着したとして診療録への不実記載を行い、保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。
キ 保険請求するに際して、保険適用以外のメタルボンド冠にもかかわらず、硬質レジンジャケット冠を装着したとして診療録への不実記載を行い、保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。
ク 保険請求するに際して、保険適用以外の前装鋳造冠ブリッジにもかかわらず、全部鋳造冠ブリッジを装着したとして診療録への不実記載を行い、保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。
ケ 保険請求するに際して、保険適用以外のメタルボンドにもかかわらず、前装鋳造冠を装着したとして診療録への不実記載を行い、保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。

2 健康保険法第81条第2号該当
ア 再三にわたって監査通知をしたにもかかわらず、出頭に応じず監査を拒み忌避した。
イ 診療体制及び診療内容等に係る質問に対し虚偽の答弁をした。
ウ 診療体制及び診療内容等に係る質問に対し答弁を拒んだ。

3 健康保険法第81条第3号該当
ア 保険請求するに際して、自費による抜歯を行っているにもかかわらず、保険医療機関に同部位の抜歯に係る診療報酬を不正に請求させていた。
イ 保険請求するに際して、ティッシュコンディショニングを行っていないにもかかわらず、行ったとして保険医療機関にティッシュコンディショニングに係る診療報酬を不正に請求させていた。
ウ 保険請求するに際して、処方箋を交付していないにもかかわらず、交付したとして診療録に不実記載を行い、保険医療機関に処方箋料の診療報酬を不正に請求させていた。
エ 保険請求するに際して、保険適用以外のメタルボンド冠にもかかわらず、保険適用の硬質レジンジャケット冠を装着したとして診療録への不実記載を行い、保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。
オ 保険請求するに際して、保険適用以外のメタルボンドブリッジにもかかわらず、保険適用の前装鋳造冠ブリッジを装着したとして診療録への不実記載を行い、保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。
カ 保険請求するに際して、保険適用以外のメタルボンドブリッジにもかかわらず、全部鋳造冠ブリッジを装着したとして診療録への不実記載を行い、保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていた。

4 その他の事故
ア かかりつけ歯科医初診料に関わる文書提供をしていないにもかかわらず、診療録への不実記載を行い、かかりつけ歯科医初診料の診療報酬を不当に請求させていた。
イ かかりつけ歯科医初診料に関わる文書提供をしていないにもかかわらず、診療録への不実記載を行い、かかりつけ歯科医再診料の診療報酬を不当に請求させていた。
ウ 自費の治療の一環として行っているにもかかわらず、ティッシュコンディショニングに係る診療報酬を不当に請求させていた。
エ 算定要件を満たさない、歯科衛生実地指導料の診療報酬を不当に請求させていた。
オ 同一患者に対し、複数の診療録を作成し、また診療録に加筆し改ざんしていた。

3 登録取消処分の取消訴訟

歯科医師は、平成19年8月18日、2回目の登録取消処分の取消しを求めて東京地方裁判所に取消訴訟を提起した(以下「前回取消訴訟」という。)。同裁判所は、平成23年4月7日に前回取消訴訟について請求棄却の判決を言い渡し、同判決は同月26日に確定した。

4 本件処分に至る経緯

歯科医師は、平成23年1月19日、中国四国厚生局長に対し、保険医の登録を申請した。
厚生労働大臣から権限の委任を受けた中国四国厚生局長は、平成23年1月31日、歯科医師に対し、弁明通知書を送付して弁明の機会の付与を通知した。弁明通知書には、「予定される処分の内容」として、「平成23年1月19日にあった保険医登録申請に対して保険医の登録をしないこと。」、「根拠となる法令の条項」として「健康保険法第71条第2項第4号」、「予定される処分の原因となる事実」として「昭和55年5月1日付及び平成18年1月19日付で保険医の登録を重ねて取り消されていることから、申請者が保険医として著しく不適当と認められる者であること。」と記載されていた。
歯科医師は、同年2月18日、中国四国厚生局長に対し、弁明書を提出した。
中国四国厚生局長は、平成23年4月8日、中国地方社会保険医療協議会会長に対し、歯科医師の保険医登録をしないことについて、同会の議決を求めた。同会会長は、同月20日、中国四国厚生局長に対し、同会が歯科医師の保険医登録をすべきでないものと議決した旨を報告した。
中国四国厚生局長は、平成23年4月27日、歯科医師に対し、保険医として登録しないとの決定(以下「先行処分」という。)をし、その頃、その旨を歯科医師に通知した。
歯科医師は、平成23年12月5日、中国四国厚生局長に対し、再度、保険医の登録を申請した(本件申請)。
中国四国厚生局長は、平成24年1月17日、歯科医師に対し、弁明通知書を送付して弁明の機会の付与を通知した。弁明通知書(以下「本件弁明通知書」という。)には、「予定される処分の内容」として、「平成23年12月5日にあった保険医登録申請に対して保険医の登録をしないこと。」、「根拠となる法令の条項」として「健康保険法第71条第2項第4号」、「予定される処分の原因となる事実」として「昭和55年5月1日付及び平成18年1月19日付で保険医の登録を重ねて取り消されていることから、申請者が保険医として著しく不適当と認められる者であること。」と記載されていた。
歯科医師は、平成24年2月13日、中国四国厚生局長に対し、弁明書を提出した。
中国四国厚生局長は、平成24年5月8日、中国地方社会保険医療協議会会長に対し、歯科医師の保険医登録をしないことについて、同会の議決を求めた。同会会長は、同月22日、中国四国厚生局長に対し、同会が歯科医師の保険医登録をすべきでないものと議決した旨報告した。
中国四国厚生局長は、平成24年5月24日、歯科医師に対し、保険医として登録しないとの決定(本件処分)をし、その頃、その旨を歯科医師に通知した。本件処分に係る通知書(以下「本件処分通知書」という。)には、本件処分の理由として、「保険医として著しく不適当と認められ、健康保険法第71条第2項第4号の規定に該当するため。」と記載されていた。

歯科医師は、平成24年11月15日、本件訴訟を提起した。

 争点及び裁判所の判断

争点1 基準の合理性及び合憲性

【裁判所の判断】
歯科医師は、本件処分は本件基準に該当することを理由としてされたものであるところ、本件基準は、「保険医等の登録取消を二度以上重ねて受けた」という理由のみで、何らの例外もなく保険医等として著しく不適当と認められるとして保険医等の登録をしないとする内容のものであり、極めて形式的で、合理性がない旨主張する。
そこで、本件基準の内容についてまず検討する。
本件通知第1の5が定める上記の各事由は、厚生労働大臣等が同項4号に基づく裁量判断を行うに当たり、極めて重要な考慮要素とすべきものとして列挙されているにすぎないと解することが相当であり、本件通知について、本件基準を含む上記の各事由のいずれかが充足された場合には例外なく申請者を保険医等として「著しく不適当と認められる者」に該当するとする趣旨のものであると解することはできないし、上記の各事由以外の事由を考慮すべきではないとする趣旨であると解することもできない。
したがって、歯科医師の上記主張は、その前提において採用することができない。

歯科医師は、本件基準に係る上記のような解釈を前提として、2度以上重ねて保険医登録を取り消された医師等について保険医登録を一切認めない本件基準は、医師等の職業選択・遂行の自由等を侵害するから、憲法22条1項に違反すると主張する。
しかしながら、保険医の登録を受けて保険診療をする地位は、医療保険制度の基本をなす健康保険制度を定める健康保険法に依拠してなされた公法上の契約に基づいて生じる地位にすぎない。保険医の登録を受けて保険診療をする権利なるものが、医師の資格を有する者に対して憲法上当然に付与されるべき基本的人権であると解することは困難であるといわざるを得ない。
また、憲法22条1項適合性を一律に論ずることはできず、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならないと解されるところ、保険医等の登録取消しを2度以上重ねて受けた者とは、健康保険法81条各号に定める登録取消事由に該当する行為を2度以上にわたって行い、かつ、それを理由に登録取消しという重い処分を2度以上受けた者であるところ、このような者については、療養担当規則等を遵守することなどが類型的に期待できないという評価を受けるのもやむを得ないというべきであり、 このような者について保険医等の登録を拒否することができることとすることについては、相応の合理性と必要性が認められる。このような者が保険医の登録を受けることができず、保険診療を行えないことになるとしても、特段の事情がない限り、やむを得ないことといわざるを得ない。本件基準に依拠した処分は、厚生労働大臣等の本件基準該当性についての判断に誤りがなく、厚生労働大臣等の特段の事情についての判断が合理的裁量の範囲内で適切に行われる限り、その目的、規制の必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度という諸点に照らして、合理的であると認められるから、憲法22条1項に違反しないというべきである。
したがって、歯科医師の上記主張は採用することができない。

争点2 処分理由の差し替え、平等原則違反等の違法の有無

【裁判所の判断】
行政側は、本件処分について、本件基準に該当することに加え、2回目の登録取消処分に先立つ個別指導や監査において、歯科医師が、不出頭や監査拒否とみなされる行為に及ぶなど、これらに協力する姿勢を示そうとせず、不正請求に対する真摯な反省の態度が全く認められなかったこと等、2回目の登録取消処分に係る歯科医師の一切の情況を考慮してされたものであると主張する。
これに対し、歯科医師は、本件処分において行政側が主張するような2回目の登録取消処分に係る歯科医師の一切の情況は考慮されておらず、行政側の主張は処分理由の違法な差し替えに当たると主張する。
そこで検討するに、中国四国厚生局長は、本件処分に当たり、2回目の登録取消処分の原因となった事実を始めとする2回目の登録取消処分に係る歯科医師の情況を考慮したものと推認することができる。 したがって、本件処分に当たって2回目の登録取消処分に係る歯科医師の情況が考慮されていないことを前提として、処分理由の違法な差し替えをいう歯科医師の主張は、採用することができない。

歯科医師は、本件基準が登録取消処分に係る一切の情況を考慮することを禁じているという本件基準の解釈を前提として、本件処分に当たり、本件基準に定めのない2回目の登録取消処分に係る歯科医師の一切の情況が考慮されたとすれば、本件処分は本件基準及び平等原則に反し違法であると主張する。
しかしながら、歯科医師が上記主張の前提としている、本件基準が登録取消処分に係る一切の情況を考慮することを禁じているという本件基準の解釈が当を得ないから、平等原則違反等をいう歯科医師の主張はその前提を欠くものであり、採用することができない。

争点3 本件処分の裁量権の逸脱、濫用の有無

【裁判所の判断】
厚生労働大臣等がその裁量権の行使としてした保険医の登録をしない旨の処分は、厚生労働大臣等の本件基準該当性についての判断に誤りがなく、当該申請に関する諸事情についての厚生労働大臣等の判断が、重要な事実の基礎を欠き又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認められるなど、厚生労働大臣等に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものでない限り、違法となることはないと解するべきである。
歯科医師は、本件基準に該当する者であり、2回目の登録取消の理由の内容に照らしても、本件基準に依拠して処分を行うことが不適切であるとされるべき特段の事情があるということもできない。他方、歯科医師は、本件申請に係る弁明書において、歯科医師が無医村同様の地区で診療を行うことを予定していることを考慮すべきことを求めていたところ、歯科医師が保険医として登録を受けることがなければ本件地区の住民が歯科診療を受けることができないという関係にあるとまでは認められない。そうすると、当該事情をもって、本件基準に依拠して処分を行うことが不適切であるとされるべき特段の事情に当たると判断しなかったとしても、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くとまではいえないと解される。
本件処分は適法であるというべきである。

争点4 本件義務付けの訴えの適法性

【裁判所の判断】
本件義務付けの訴えは、行政事件訴訟法3条6項2号が規定するいわゆる申請型の義務付けの訴えであると解されるところ、このような訴えにおいては、法令に基づく申請を却下し、又は棄却する処分がされた場合において、当該処分が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であるときに限り提起することができるとされるが、本件において、本件処分の取消しを求める歯科医師の請求に理由はないから、本件処分が取り消されるべきものであるということはできない。
したがって、本件義務付けの訴えは、訴訟要件を欠く不適法な訴えであり、却下されるべきである。

 判決:結論

1 本件訴えのうち、保険医登録の義務付けを求める部分を却下する。
2 原告のその余の請求を棄却する。


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